個展を振り返って・その3(1999年5月30日)
「事実は小説よりも奇なり」そこで今回は、会場内で実際に交わされた会話をいくつか紹介します。
写真を趣味とするおじさんとの会話
「いや〜素晴らしいねぇ〜。ところで、文はキミが書いているの?」
「はい、そうですが」
「たいしたもんじゃないか」
「いえ、それほどでも」
「そうなんだよ、写真表現での足りなさを、文で補うという手もあるんだよね」
「……」
社長夫人らしき人との会話
「ねえあなた、こんなこと聞いていいかしら?」
「はあ、何でしょう」
「こんな素晴らしい個展なのに、どうして入場料を取らないの?」
「はあ、別に深い意味はありませんが、東京の写真ギャラリーはどこも入場料を取らないのが普通です」
「それであなたに何かメリットはあるのかしら?」
「多くの人に作品を観ていただき、島の美しさを紹介出来ればと…」
「違うのよ、現実問題としての話よ」
「いえ、特にありません」
「誰かスポンサーがいるの?」
「いえ、いませんが」
「この不景気にどうやって写真で食べていけるの?」
「はあ、東京にいる時は商品撮影をしたりとか、雑誌やパンフレットに写真を使ってもらったりとか……、もちろん好きなことしていますから毎日が綱渡りのような生活ですが」
「だったら入場料を取りなさいよ」
「はい」
新宿OLとの会話
突然僕の目の前にやって来て、
「こんにちは吉村さん、お久しぶりです」
「あっ、はい、こんにちは」
「島の○○さんはお元気ですか?」
「はい、元気ですよ」
(僕は、以前どこかで会った彼女のことを思い出せないでいる)
「その節はありがとうございました」
「はい、いえ、こちらこそ」
(まだ思い出せない)
「写真展、楽しみにしていました。じっくりと拝見させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
彼女が写真を観はじめるとほっとし、「さて、どこで会った人だろう…」と真剣に考える自分。近頃急に物忘れが激しくなった。彼女が立ち去る前にまた話をしたけれど、どうしても思い出すことが出来ず、そして最後まで「どこでお会いしましたけっけ?」と聞けなかった情けない自分……。
10年以上もつき合っている友達との会話
彼は会場に入って来るなり、
「なんだよ吉村、個展なんか開いちまって。おまえやるときはやっているよな〜」
「当たり前だろ、写真がオレの仕事なんだから」
「おい、今日飲みに行こうぜ」
「だめだよ、今日は先約がある」
「女かよ」
「ばか、知り合いの編集者だよ」
「しょうがねーなー、また来週立ち寄る」
「おい、どうでもいいけど写真を観ていけよ」
島に一年間住んだことのある女性との会話
「でも、吉村さん、これって島の現実と違いますよね。綺麗に撮れすぎています」
「う〜ん、多くの人にそう言われるんだけでど、この美意識が僕の自己表現だから」
「私、島に一年いたんだけれど、こんな風景一度も見たことないわ」
「島の人たちも同じ事を言っています」
「これじゃあ、多くの人が誤解しますよね」
「う〜ん、確かにそこが難しいところなんだけど。まあ、一つの自己表現だと思ってもらえれば……」
「写真って、奥が深いですね」
「はい、僕も常々そう感じています」
教育ママ風の人との会話
「吉村さんは素晴らしい写真を撮るけど、どこの大学出身なんですか?」
「いえ、大学は行っていません。人に自慢できるような立派な学歴はこれっぽっちもありません」
「あら、そうなの」
日本社会。まだまだ多くの人が「学歴」で人の価値を判断しています。この10年間、幾度となく繰り返されてきたこんな会話、僕はもう慣れましたけどね。
大学生との会話
「あの〜ちょっとすみませんが、質問していいですか。会場内に流れているBGMは何という曲ですか?」
「東儀秀樹という人の曲です」
「あのメグライアンのお茶のコマーシャルで流れている曲と一緒ですか?」
僕は、どうしてメグライアンとお茶が結びつくのだろうと不思議に思いながら、
「すみません。テレビを観ないもので……」
「これって吉村さんの選曲ですか?」
「いえ、友達です。今回の個展にはこれがぴったりだということでその道のプロが選んでくれました」
「僕も買おうかな、このCD」
「僕もダビングしようと思っています」
50歳前後のおじさんとの会話
「吉村さん、カナダに半年もいるって書いてあるけど、家を持っているんですか?」
「いえ、取材のたびに宿やアパートを借りています」
「私はカナダに移住したいんですが、3000万円出せば豪邸が買えるって本当ですか」
「はい、本当です。僕の友達でもいい暮らしをしている人が何人もいます」
「東京でちっぽっけなマンションを買うより、得だよね」
「はい、確かにそうですが、問題は永住権の取得です」
「カナダにもアメリカのような抽選があればいいのになあ〜」
「そうですよね。でも、そのうちに出来るんじゃないですか」
編集者らしき人との会話
「前回のニコンサロンの個展よりも数倍もいいね」
「ありがとうございます」
「ニコンの時は、まあこんなもんかなって感じだったけど、今回は写真から強いメッセージを感じるよ」
「前回は水がテーマで、今回は秋や冬の写真も織りまぜ、バリエーションに富んでいますからよく見えるのかもしれません」
「写真に力強さがついた気がするよ」
「ありがとうございます」
「ここまで派手にやっちゃうと、次が大変だね。もう準備はしているの?」
「はい。あるテーマを決め、撮り溜めています」
「楽しみにしているよ」
「はい、ありがとうございます」