冬のカナダ取材記(1999年1月2日)
カナダ東部には春夏秋冬とはっきりとした四季があり、11月〜12月には必ず大雪が降りました。でもここ数年、そのサイクルが大きく乱れているのです。これは自然界の悪戯か、それとも人間が地球を汚しつづけた結果によるものなのか……後者でないことを祈るばかりです。
カナダ、プリンス・エドワード島に入ったのは12月8日。雪はなく、秋をそのまま引きずったような様相に驚きました。冬暖かいということは生活は楽になるかもしれません。でも僕は恐いのです。何だか近い将来不吉なことが起こりそうで。
写真家は困ります。やはり冬には雪や寒さが織りなす光景を求めるわけですから、それがないと大問題です。きっと世界中の風景写真家が近年の異常気象で苦しんでいるのではないでしょうか。
今まで、ある土地を追いかけ何かの形にする場合、最低で1年間という取材期間があれば十分でした。でも、草花の開花は不規則、紅葉に冴えがない、雪が降らないとなると、これからは3〜4年必要ということになります。
今年は特にクリスマスの飾り付けやイルミネーションが綺麗です。しかし僕はどうしてもシャッターを押す気になれないのです。だからカナダに来て6日間も無為に過ごしてしまいました。
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プリンス・エドワード島から約500キロ離れたケベック州ガスペ半島に雪があるという情報をキャッチ、早速行ってみることにしました。
ニュー・ブランズウイック州を経由しガスペ半島へ。確かにガスペには雪がありました。でも何日も経ったかたい根雪、所々地肌を覗かせています。ないよりましか…と呟きながら、カールトンの町に起点を置き、撮影をはじめていきました。カナダに来て10日目にして初めてのシャッターが押せたのです。
海岸線が美しいガスペは、夏は多くのアメリカ人、カナダ人の観光客で賑わいます。でもさすがにこの時期、観光客は誰一人としていません。宿やギフトショップの9割以上がクローズ。住む人もフロリダあたりへ非難しているのでしょう、町はまるでゴーストタウンのよう。開いているレストランが少なく、食事には苦労しました。
ガスペはフランス語圏です。きっとここで生活すればフランス語はメキメキ上達することでしょう。ちなみにこの町には日本人は誰一人として暮らしていません。マタペディアという町に商社の駐在員が一人いるという噂を耳にしましたが、真相は定かではありません。
僕は、ガスペのようなマイナーな地にこそ夢を追い求めているワーキングホリデーの若者がもっと住めばいいのにな、と強く思います。最近の若者は、カナダの大都市やプリンス・エドワード島のように日本人がたくさんいるメジャーな場所ばかりに群れる傾向があります。
マイナーな地での生活は実にハードですが、その苦労は夢実現への近道切符を手にすることが出来ます。僕も11年前にプリンス・エドワード島に一人で1年間生活したときは、島の写真など撮って本当にカメラマンになれるのだろうか……と不安ばかり感じていました。
世界にはまだまだ多くの魅力的な地が埋もれています。たとえばアトランティック・カナダのニュー・ブランズウイック州。州都フレデリクトンは歴史を感じさせる実に雰囲気のいい街ですが、そこで暮らしている日本人はいません。(大学があるので、もしかしたら数人の留学生がいるかもしれないが…)フレデリクトンより田舎のプリンス・エドワード島には100人近い日本人がいるというのに、この違いは一体なんなんでしょうか。
話はいきなりガスペからニュー・ブランズウイック州へ飛んでしまいましたが、実は今、ここガスペを去りニュー・ブランズウイック州へ移動することを検討中。天気予報によると、明日ニュー・ブランズウイックで大雪が降るかもしれないとのこと。
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思い切ってガスペからニュー・ブランズウイック州へ400キロの移動。フレデリクトン郊外の定宿にチェックイン。
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今年初めてのスノーストーム、一晩中激しい雪嵐でした。
朝方雪が弱まったので、街中をロケハン。十分撮影可能なことを確認すると、11時頃から「雪降る街」の撮影をはじめていきました。雪まみれになりながらフィルム5本回し、手応えある写真をgetしました。雪が完全に止んでから、次はイルミネーションの撮影。とても充実した一日を過ごすことが出来ました。
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2日後、プリンス・エドワード島へ戻りました。島にもスノーストームが訪れたらしく、一面真っ白。地表はもちろんのこと木の幹や家の壁にも雪が付着しており、ようやく冬らしい季節の到来です。300キロのドライブの疲れを気にすることなく、島に入ると即撮影に取りかかりました。魅力的な被写体と対峙していると、他の物が何も見えなくなり、考えられなくなり、気持ちが極限まで高まるのです。
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朝起きてびっくり、なんと大雨です。せっかく島に舞い降りた雪も8割方とけてしまいました。残雪も雨を吸い堅くなっているため、風景から優しさが欠けています。写真家はそんな些細な変化に拘るのです。
それでも貴重な雪景色だからと、雨の中外に出て撮影しました。雨に打たれながら雪景色にカメラを向けるというのも実にユニークです。
12月に降る雨は、ここプリンス・エドワード島では珍しくありません。その理由は簡単、島は海に囲まれているからです。海の水はあたたかいため、内陸から移動してきた寒気団がゆるみ、気温が2〜3度上昇します。海がいかに陸地の気候に影響を与えているか、ここプリンス・エドワード島で暮らすとよく理解できます。
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12月22日。マイナス12度、風があるため体感気温はマイナス30度。久しぶりにカチンとした寒さです。こんな日は空気がとても乾燥しています。だからもし自分がフリースやセーターを着ていたらたいへん。車のドアにふれた瞬間、火花が散るほどのすさまじい静電気に襲われます。心臓がチクリと痛くなるほど強烈なので、恐くて恐くて仕方がない。
寒くなったり暖かくなったり…実に激しい気温変化です。こんな気温差の中で生活していても風邪を引かない理由は二つ考えられます。一つは人口密度が低いということ。もう一つは家の中が暖かいということでしょう。
前にも書きましたが、カナダの冬の生活は本当に楽です。建物の中はどこもかしこもセントラルヒーティングで一定温度に保たれているため、玄関の戸を潜ればそこは春なのです。
普段の生活で「寒い」と感じる数をカウントしてみれば、カナダの場合は日本の1/10でしょう。日本では家に戻るとまず「寒い」と感じ、ストーブに火が灯るまで「寒い」と感じ、ストーブのある部屋から出ると「寒い」と感じ、トイレ行くたびに「寒い」と感じます。日本ではきりがありません。
ある専門家は、日本の家庭でセントラルヒーティングが普及しない理由をこう説明してくれました。燃料費が月10万になる、害虫が発生する、建物が湿気でだめになる。でも僕は、日本人は「寒さに耐える文化」を持っていることにも原因があると考えます。そう、日本では辛抱することが何よりの美徳。生まれ故郷の信州では、寒い寒いと言いながらもみんな必死で冬の寒さを耐えています。
でも一説では、セントラルヒーティングにすることによって各家庭から排出される二酸化炭素の量はすさまじいとか。そう考えるとカナダも罪ですよね。
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マイナス10度を越えると面白い写真が撮れます。最近は日の出前から積極的にフィールドに出掛け、シャッターを押しまくっています。
よく森の中を歩きます。東海岸に僕の大好きなカエデの森があるのですが、その森に入って驚きました。先日の雪嵐の影響で、たいぶ老木が被害を受けていたからです。自然が自然を破壊するというのは循環であり、だからあまり悪い気はしないのですが、森が弱くなるという現状は、森近くに住む人間にも少なからず責任があります。僕は、「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に……」という日本人の思想をより多くのカナディアンにも教えてあげたいな、と常々思っています。
この日初めてフクロウを撮ることが出来ました。姿はよく見掛けてはいたのですが、写真が撮れたのは今回がはじめてです。11年間島に通ったかいがありました。
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今回はある家庭に居候しているため電話回線が使いたい放題です。だから暇な時間を見つけてはインターネットに接続し、様々なホームページによって母国の情報を得ています。
その中でもよくアクセスするのは新聞社系のホームページ。主に『アサヒ・コム』です。メインの記事はもちろんのこと、社説や天声人語や連載小説まで読むことができます。
でもふと、このような情報の無料垂れ流しでどうしてビジネスになるの??? と疑問に感じました。以前は海外に住む日本人は月100ドルものお金を払って新聞を買っていたのですよ。それがインターネットを使えば無料になるわけで……
まあこの辺のからくりは、山根一眞氏の本を読むとよく理解できます。
『アサヒ・コム』の場合、一日のヒット数が800万人。バナー広告の料金は一点月120万円。年間の推定広告収入は3億〜4億円。つまり民放テレビのように広告費だけで運営してるのです。制作コストが少ない分、それでもビジネスとして成り立つとのこと。
僕は、なるほどな、と感心しました。
日本の場合、まだまだインターネットが完全に定着していなので、企業や個人の取り組み方は実に悠長です。いつの日か日本でもインターネットがかなり重要な地位を占めてくると予測しますが、あるアメリカ人の書いた『インターネットは空っぽの洞窟』という逆説を唱える受け狙いの本がベストセラーとなり、「そうだ、そうだ」と賛同している人が多い現状を見ると、まだまだ先かなとも思うのです。
僕がなぜカナダにいるときにさかんにインターネットを利用するかというと、それはローカルコール(市内通話)が無料だからです。日本では市内通話もチャージされるため、インターネット接続時には、10円が加算されていく音が頭の中で響いています。だからどうしても逃げ腰。
まあ市内通話無料の問題に関しては、NTTが最も頭を悩ませていると思うので、今後のサービスに期待したいところです。近い将来、日本も必ず市内通話無料の時代が来ると思いますよ。
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クリスマスが近づいています。
このところ夜は各家庭にお邪魔し、クリスマスツリーを撮影しています。一件撮ったらそこのオーナーに誰かを紹介してもらい、そしてまた別の家へ……といった感じで。僕はこれを芋蔓式取材と呼んでいます。
この時期、島の人はかなりボルテージが上がっています。一年の内で最も大切なイベントなので無理もないのでしょう。だから各家庭にお邪魔しツリーを撮らせてもらうときも、結構気を使ってしまいます。
ある友達のご主人がサンタクロースに変装するという情報を入手、僕は早速出掛けていきました。そのご主人、僕が家に入った時にはすでに着替えを済ませ、サンタクロースになりきっていました。娘たちは父親のそんな姿に呆れているのか、これといった反応を示しません。
外で写真を撮ろうということになり、ストリートでサンタクロースに自由にポーズをとってもらいました。するとサンタさん、自分が撮られていることに快感を覚えますます行動がエスカレート。近くのショッピングモールに繰り出しました。
ショッピングモールではすぐに、まだサンタクロースを信じている小さな子供たちに取り囲まれました。サンタは上機嫌で、僕もシャッターを押しまくり。程なくしてこのモールを仕切っている別のサンタが現れたので、「やばい」と感じた二人はそそくさと退場。たった15分の出来事でしたが、実に面白い写真が撮れました。
そうそう、途中ませた小学生のガキがやって来て、すました顔でサンタに向かってこう質問。「おじさん、一体誰?」
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12月25日クリスマス当日。朝、街に出てびっくり。なんとすべてのお店がクローズしているのです。あのティムホートンもマクドナルドもコンビニもガソリンスタンドも何から何まで休みです。
朝、コーヒーを必要とする僕は焦りましたが、とにかくそのまま撮影に出掛け、その後、さてどうするかと真剣に悩みました。もちろん自分でコーヒーを入れればいいのですが、今回は居候のためなんとなくキッチンが使いにくいのです。
そうかホテルなら可能性あるかも…と閃き、CPホテルに向かいました。案の定、レストランは営業していました。もちろん客は僕一人だけ。
接客に来たウエイターはたまたま僕の昔の知り合い。僕が「クリスマスに働くのはどんな気持ち?」と尋ねると、「家にいてもどうせ暇だし、こんな日に働くのは別に苦じゃないよ」という返答。日本の正月同様、カナダでもドライに考える人はいるのです。
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最近プリンス・エドワード島でも、クリスマスの時期に日本からツアーのお客さんが来るようになりました。しかし25日はすべてのお店が休みで街の機能は完全にストップしています。だから、お客さんは果たしてツアーに満足しているのだろうか…という疑問が残ります。もちろん冬景色を目にするだけで十分という人はいいのですが、お土産を買ったり、レストランで食事したりとグローバルな観光を求めている人には25日のステイは少々きついのではないでしょうか。
クリスマスにプリンス・エドワード島を訪れる場合、賑やかな前日の24日か、直後の26日も島にステイすることをお勧めします。すべてのお店がオープンしており、ショッピングに熱狂する島の人と一緒に買い物を楽しむことが出来ます。また、クリスマスミサにも参加可能。
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4週間の冬の取材、本当にあっと言う間でした。今回は雪が少なかったため、今までで一番少ないフィルムの消費量となりました。後半、インターネットへの接続の調子が悪く、最新情報をお伝えすることが出来ず申し訳ありませんでした。皆様からのメール、確実に受け取っています。ありがとうございました。
これらの取材記は、車や飛行機やホテルの部屋の中で書いたものです。現場の雰囲気を伝える意味で、あえて訂正を加えることなくそのままアップロードします。(日本にて)