ヨーロッパ取材記



●ルフトハンザの直行便でドイツのミュンヘン空港に到着。その後すぐにレンタカーを借り、ダウンタウンへと向かいました。しかし、交通規則は違うし、ドイツ語の標識は読めないしで、北米のようにすんなりとはいきません。結局2時間近くも道に迷い、駅前のホテルにチェックインできたのは夜8時を過ぎてからでした。
●たとえヨーロッパといえども、僕は大都市にはあまり興味がないのです。ミュンヘンはとても美しく魅力的な町でしたが、まあいつかの機会に撮ればいいやと思い、翌朝、日の出とともに街を後にしました。
●カンを頼りに車を走らせたら、どうにか一発で街中を抜けることに成功。ハイウェイに乗り、ドイツとオーストリアの国境を越え、ザルツブルグに入りました。この街は、モーツァルトが誕生した地として有名です。もちろん旧市街は世界遺産。まずはホテルを決めて荷物を置いた後、機材を担いで方々を歩き回り、心に響いた被写体にカメラを向けました。途中、せっかく来たのだからと、ホーエンザルツブルグ城塞や モーツァルトの生家を見学しました。実は吉村はクラシックは苦手です。いままで友達に誘われ3回ほどコンサートに行ったことがありますが、毎回激しい睡魔に襲われています。でも音楽には人一倍興味はあるのです。これを機会に、またクラシックを聴いてみるつもりです。
●今回は、今後のヨーロッパ取材のロケハンも兼ねているため、各地を駆け足で巡っています。翌朝にはザルツブルグを後にし、サンクトヴォルフガング湖やフッシュル湖に立ち寄りました。ガイドブックには、「オーストリア屈指の景勝地」と書かれていますが、僕に言わせればたいしたことはありません。どこにでもある風景です。何も撮るものがないので、40キロほど南下したハルシュタットへ向かいました。
●世界遺産ハルシュタットは、山と湖に囲まれたとても美しい村でした。駐車場に車を停めた後、徒歩で村の中をずんずんと進み、教会と村が一望できる場所から、よく旅行パンフレットに登場するあの風景を撮影しました。が、逆光のため、いまひとつです。村全体を順光で撮るには、おそらく朝の時間帯です。次に訪れた時、この村にも何日か滞在し、心に描いた風景を狙ってみるつもりです。
●ドロミテと呼ばれるイタリア北部は山岳地帯。カナディアンロッキー以上に険しい岩山が連なっています。あまりにもイタリアのイメージとかけ離れた景観だったので、 オドロキました。ここヨーロッパでも、実際僕らがテレビや本などを通して知る世界というのは、ある一部分だけなんですね。やはり行動して発見していくことは大切なんだなあ〜とあらためて感じました。いずれにしても、そんな山岳地帯の麓にある村々は美しく、フィルムがいくらあっても足りませんでした。
●それにしてもヨーロッパの街並みは美しいですね。おそらく建物の統一感が、この美しさを生み出しているのでしょう。日本も素晴らしい国なのに、どうしてこのような町並みが残されていないのか、不思議です。例えば京都。個々のお寺は確かに素晴らしいと思うのですが、京都の街全体にあまり魅力を感じたことがありません。例えばコンクリートの建物、または車などをすべて排除してしまうとか、そんな大胆な策があってもいいと思うのです。あの必要以上に近代的な京都駅や、ヘンテコな駅前のタワーはどうみても変ですよね。
●今回、宿はすべて現地で直接取りました。さすがに北米のようなモーテルは一つも見掛けませんが、B&Bのような安宿は数多くありました。一泊50〜70ユーロ、田舎に行くと20〜30ユーロです。北米に比べ宿の値段は若干安めです。
●ドイツの片田舎で、ある酪農家の家に泊まりました。当然、オーナーのおじいちゃ んもおばあちゃんも、片言の英語すら理解できません。でも、不思議と身振り手振りでお互いの意志の疎通ができるのです。実はその日の晩、歯磨き途中に誤ってガラス のコップを割ってしまったのです。すぐに交換してくれましたが、そんなトラブルも難なく解決できました。ヨーロッパ取材の前は「言葉の壁」に不安を感じましたが、 全然心配はいりませんでした。いつもどうにかなっていくものです。
●ヨーロッパのすべての宿は、基本的には朝食付きです。コンチネンタルといえども、それなりの朝食が用意されており、特にヨーグルトは種類が豊富、どこも5〜7種類はあります。その中でクリーミーな白いヨーグルトが気に入り、毎朝せっせと口に運びました。おそらく日本では、ダノンという名で発売されているヨーグルトです。ちなみに、ヨーロッパから帰国して以来、食べるヨーグルトはダノンばかりになりました。 本当に美味しいです。
●ドロミテで、どうしてもこの目で見たい風景があったのです。それは、草原の中に教会がぽつんとあるという、写真家の世界では有名な風景です。雑誌の写真を見せ、 地元の人に場所を尋ねても、誰もが知らないなあ〜と首を横に振ります。しかし、粘りっこく尋ねていくと、8人目にしてようやくその風景の場所を知っている人と出会いました。翌日その場所に出向き、そして風景と対面したとき、嬉しさのあまりジ〜 ンとくるものがありました。夕焼け色に包まれる時間帯にふたたび訪れ、写真を撮りました。次は秋か冬に再訪してみるつもりです。
●今回持ってきたJフォンの携帯電話、行く先々で問題なく使えました。国際電話特有の音声の微かな遅れはありますが、音質はとてもクリアです。基本料金540円、通話料も超格安。海外に出掛ける機会が多い皆さん、これはお勧めです。よく空港でレンタルの携帯電話サービスがありますが、あれは高いのでやめたほうがいいでしょう。お金の無駄です。
●小山か崖の上には、必ずといっていいほど城が建っています。そんな光景を目にする度に、ああ、自分はヨーロッパにいるんだなあ〜と感じます。
●ドロミテ渓谷から高速を使って南下していきました。何とイタリアの高速は日本同様、料金を徴収するのです。(格安ですが)で、ベニス手前の料金所で大渋滞に巻き込まれ、結局抜け出すのに1時間も掛かりました。料金所は広いのに、入口と出口の道は狭い…。おそらくこれが渋滞の原因です。きっとこの場所は毎日渋滞しているのでしょう。
●もちろんベニス(ヴェネチア)は車で入ることはできません。車で行く場合はどうすればいいのかと不安でしたが、橋を渡ったすぐの所にちゃんと大型の駐車場がありました。そこに車を停め、すべての荷物を持ち、水上バスで中心地区へ。それにしてもベニスは実に面白い町です。どこにカメラを向けても絵になります。かつて日本の多くの写真家がこの町で暮らし、たくさんの写真を撮りました。何となく彼らの気持ちがわかるような気がしました。
●今年は異常気象とかで、連日夏日が続いています。あまりに暑いので、夕方には決まって夕立が降ります。
●イタリア滞在中はパスタばかり食べていましたが、どんな小さなレストランに入っても、それなりに美味しいパスタが出てくるので嬉しかったです。
●残り2日間は、ロマンチック街道を北上してみました。まずはフィッセンにあるノイシュヴァーンシュタイン城。例のシンデレラ城のモデルとなった城です。残念ながら、手前の塔が改装工事中。だから写真は一枚も撮りませんでした。そう、この工事中というのが写真家泣かせなのです。カナダでも多くの建造物を撮影していますが、 特に教会はしょっちゅう櫓を組んで改装工事をしています。そんな時は焦らず、 撮影を翌年回しにしているのです。ちなみにシャーロットタウンのバシリカ教会は5年、オタワの国会議事堂は2年待ちました。
●シュバンガウの安宿に宿泊。翌朝早起きして郊外の景観を撮影しましたが、ザンクトコロマン教会周辺に朝靄が発生し、ベストショットを撮ることが出来ました。
●移動はもちろん高速道路を走ります。やはり、ドイツの高速道路は想像以上のすさまじさでした。走行車線を時速120キロ前後のスピードで走っていると、地元の人は200キロ近いスピードでビュンビュンと追い抜いていくのです。僕も結構スピードを出す方ですが、さすがに140キロを超えると体がブルブルと震えてきて、それ以上アクセルを踏むことが出来なくなります。吉村は見かけに寄らず臆病な人間なのです。たとえ200キロで走っていても、助手席にいる人と世間話を楽しんでいるドイツ人って、やっぱりすごいです。もしかしたら、ドイツ人は日本人より、怖さに対する感覚が鈍いのかもしれません。いずれにしても、ベンツやBMWなどの車が開発される理由が何となくわかったような気がしました。吉村は高級車なんぞこれっぽっちも興味がありません。マイカーは一生K自動車でいいと思っているほどです。でも、もしヨーロッパで暮らすことになったら、やはり200キロ以上で走行しても安定性を保つベンツかBMWが欲しくなるのでしょう。欲しくなるというか、必要になると言った方がいいのかもしれません。
●ネルトリンゲンとディンケルスビュールにも立ち寄りました。教会のてっぺんから見る町の全景は素晴らしかったです。そうそう、ネルトリンゲンで喉が渇いたのでスーパーに入ったのです。そしたら「クー」が売っていました。ちなみに「なっちゃん」 はありませんでした。
●ヨーロッパの印象は、実に広いなあ〜ということです。1週間あればドイツもフランスもイタリアもイギリスも行けるだろうと思っていましたが、とてもじゃない、無理でした。
そして、最後のまとめとして……
ヨーロッパはどこを撮っても写真(絵)になります。だから、写真撮影はとても簡単です。 でもこのような場所は、つまらない作品を量産してしまうという結果にも繋がります。
やはりヨーロッパを撮影するには「テーマ」を決めなければダメです。残念ながら今回の駆け足の取材では、そのテーマを見つけることができませんでしたが、何度か足を運び、
暮らしたりしているうちに、自分の表現したい、伝えたい世界が見えてくるような気がしています。
●ケベックシティは世界中からの観光客であふれかえっていました。サーズの影響などこれっぽっちも感じません。トロントの病院以外の場所は安全だということは、誰もが知っています。マスコミ報道に決まって過剰な反応を示してしまう日本の社会って、少し問題ありですね。ちなみに今の時期、ケベックシティは日本人だらけですが、今年は個人旅行者がチラホラいるだけです。今年思い切ってカナダに足を運んだ人は、すごくラッキーだったと思いますよ。
●レンタカーで国境を越え、アメリカに入りました。カナダ人アメリカ人は自動車免許証だけで即パスなのに、やはり僕のような日本人は建物内で徹底的に調べられました。何でアメリカに行くんだ? どこに泊まるんだ? 友達はいるか? 怪しい物は持っていないか?……etc。例のテロ以来、国境越えは厄介です。
●バーモント州を訪れるのは初めてです。なだらかな山並みが連なる、日本の東北地方のような景観でした。モダンな民家が多く、カナダ以上の素朴さはないような気がしました。そう、アメリカとカナダは隣同士であっても、国境を越えると景観はがらりと変わるのです。まったく別の国なのです。
●ヨーロッパ取材から帰ってすぐに大阪で写真展、そして休む間もなく1ヶ月間のカナダ取材……。ここ数ヶ月の過密スケジュールの無理がたたったのか、風邪を引きました。間接が痛く、体が怠く、おまけに熱もあります。さすがに撮影をする気にはなれず、ローレンシャンの定宿のベッドで安静にすることにしました。でもその夕方、燃えるような夕焼けが出たのです。どうしようかと迷いましたが、結局その美しさを見なかったことにし、撮影しませんでした。
●どうやら本格的な夏風邪にやられたらしく、結局、3日間も寝込みました。サーズと疑われて隔離される恐れがあるので、当然病院には行きませんでした。それにしても、近頃、めっきり体力が落ちてきたなあ〜とつくづく感じます。(やはり年齢のせい?)行動パターンと気持ちの持ちようは20代のままですが、肝心の体の方がついてこないのです。写真家は常に行動していなければなりません。これから先のことを考えると随分と暗い気持ちになりますが、まあこれも自分の選んだ道。いずれにしてもシンドイ職業です。
●低気圧に覆われ雨になり、気温はいっきに10度まで下がりました。こんな日は、たとえ夏でも底冷えを感じます。風邪を引いているのでなおさらです。僕は旅する時に必ず持参する物があります。それは小型のダウン寝袋です。毛布がわりにも、カメラ機材を守るクッションにもなり、とても役に立つのです。今回もこの寝袋に随分と助けられました。
●1週間後、飛行機でモントリオールからアトランティック・カナダのハリファックスへ移動しました。風邪は峠を越しましたが、まだ喉と鼻が変です。
●空港でレンタカーをピックアップしようとしたら、「小型車はありません」と言われました。今年は大型車だけになってしまったとか。小型車の料金で大型車に乗れるので、普通の旅行者は喜ぶのですが、僕はちっとも嬉しくありません。1日最低でも500キロ以上は走るので、燃費の悪い大型車ではガソリン代が大変だからです。ざっと見積もっても、満タンで50ドルなので、3週間で1000ドル以上です。仕方がないので、大型車の中でも燃費のよさそうなトヨタのカムリを選びました。ガソリンが嘘のように安かったアメリカが懐かしいです。
●プリンス・エドワード島に入りました。戦争、サーズと続き、今年は日本人観光客が激減しています。5月のゴールデンウィークの頃は1人も来なかったとか。カナダという国は、観光業も重要な経済の柱の一つです。だから観光客がやって来ないと、国そのものが傾くのです。心なしか島の人にも元気がありません。簡単な打ち合わせで観光局に足を運んだのですが、スタッフの誰もが暗い表情をしていました。
●すでに島を追い掛けて15年です。近年、素朴さが失われてきたような感じを受けますが、気のせいでしょうか……。
●ヨーロッパはとにかく撮る物がたくさんあり、フィルムがいくらあっても足りません。しかしここカナダでは、撮る物はあまりないので、当然フィルムの消費量がガクンと落ちます。必死になって被写体をさがす、という行為をするので、ヨーロッパよりもカナダの方が面白い、と言うことも出来るのですが、いずれにしてもカナダという国を撮るには苦労します。今日も一日中、プリンス・エドワード島内を車で走りましたが、結局心に響く被写体を見つけることができず、1枚の写真も撮りませんでした。
●日本では本は1冊も読まないのですが、海外取材中はよく読みます。何日も決定的な「光」を待っている時など、暇で暇で仕方がないからです。で、今回はちょうど10冊の本を買って持ってきました。あっという間にすべて読破してしまいましたが、面白い作品もあれば、つまらない作品もありました。今回持ってきた中で一番心に響いたのは『ドナウよ、静かに流れよ』(大崎善生著・文藝春秋刊)です。滅多に出会えない素晴らしいノンフィクションです。
●今年は曇りや雨ばかりです。しかし島に入って5日目にようやくスカッとした青空が広がりました。空には美しい筋雲が発生しています。純白の雲は、白い教会や灯台ととてもよく似合うのです。数枚、手応えのある写真を撮ることができました。
●ケンジントンに、Frosty Treatという小さなテイクアウトのお店がありますが、このソフトクリームは絶品です。日本でよくある高原ソフトクリームのように、濃厚なミルク味です。珍しく村に立ち寄ったので、2年ぶりに食べてみました。ちなみに島にはカウズという有名な専門店がありますが、ここのアイスクリームは、僕に言わせればごく普通の味です。下のコーンも、甘すぎてあまり好きになれません。
●今は7月です。ここ数年、8月にカナダに足を運んでいません。理由は簡単、あまり好きになれないからです。まず、飛行機の運賃が高額、格安を買っても往復20万円はします。それに、どこに行っても観光客でごった返しており、交通渋滞、駐車場さがしなど、イライラのしっぱなしとなるからです。
●州都シャーロットタウンのガバメントハウスとビクトリアパークのちょうど中間に、素晴らしいイングリッシュスタイルのガーデンがあります。隅々まで手入れされており、すべての花が生き生きとしています。特に奥のバラ園は見事です。このガーデンは、地元でもあまり知られていないらしく、いつ訪れても人はまばら、日本人観光客は100%見逃します。花の見頃は7月中旬〜8月初旬。僕は雨で暇な時、よくこのシークレットガーデンを訪れ、花にカメラを向けて撮影の練習をしています。
●1週間後、ノバ・スコシア州アナポリスバレーに移動しました。ここに、日本人の音楽家夫妻が家を買って住んでいます。今回は3日間もお世話になりました。そう、何も資本を持っていない吉村の写真活動って、このように世界中にいる友人・知人に助けられているのです。感謝、感謝です。
●今回の夏のカナダ取材は天気が悪く、晴れてもヘイジイ(ジメッとしている)で、3週間いても手応えのある写真は撮れませんでした。吉村の場合、1回の海外取材は自費で6〜70万の取材費が掛かり(これが我が家の家計を圧迫している原因でもあるのですが……)、だから取材の成果がイマイチだと、東京に帰ってからも恐ろしく機嫌が悪くなるのです。「あ〜今回も最悪だ〜」と思っていたら、最終日の朝、どうしても欲しかった「白いサンポーチがある家に、朝日が差し込んでいる」という写真をゲットすることが出来ました。諦めずに続けていると、求めている物は必ず向こうの方から近づいてくるから不思議です。お陰で少しだけ気分がよくなりました。
●ヨーロッパ全土で使えたJフォンの携帯電話(機種はv66)、もちろんカナダにも持ってきました。今回の取材先である、ケベック州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州のほぼ全域で問題なく使えました。プリンス・エドワード島は、シャーロットタウンやサマーサイドの町は大丈夫ですが、郊外へ行くと電波が弱くなり、通話は不可能でした。カナダでも音質は極めてクリアで、日本国内通話とそれほど大差はありません。恐るべしJフォンです。ボーダフォンとくっついたことがどれほど凄い事か、多くの日本人はまだあまり気づいていないのではないでしょうか。それにしても、Eメール、携帯電話と、どんどんと便利になっていくと、例え遠い外国にいても、異国にいるという感じが薄れてきます。たまに、カナダの田舎での生活が、日本の田舎での生活のように感じる時があります。