4月9日(日)
カナダへの出発日です。
案の定、パッキングは朝からになりました。いつも、もっと早めに準備をしよう、と思っても、結局は忙しさにかまけて当日になってしまうのです。
今回、昨日買ったばかりの写真機材があるので、合計で5台のカメラと13本のレンズをカナダに持っていくことになります。古いレンズをウレタンでくるみ、衣類と一緒にスーツケースの中に入れるなどの工夫をしてみましたが、どんなにコンパクトにまとめても荷物は4つになりました。もちろん一度で運ぶのは不可能です。
まずは2つの荷物を手にし、10時ちょうどに事務所を出ました。地下鉄に乗って箱崎シティーエアターミナルへと向かいます。都営三田線を使うと神保町で半蔵門線に乗り換えるだけ、約45分で着きます。荷物をコインロッカーに預け、同じルートで板橋の事務所に戻り、残り2つの荷物を運びます。
かつては車を持っている友人にお願いしたり、タクシーを呼んだりしましたが、この方法が最も早く経済的なのです。
昼ちょっと過ぎに、4つの荷物の移動が完了。エア・カナダと提携を結んでいる全日空のカウンターでチェックインをしようとしたら、何と手続きは2時半からとのこと。19:00発なので当然かもしれませんが、早め早めにコマを進めていただけに、がっくりです。「安全上の理由から」ということでしたが、そのとってつけたような安全上の理由って、一体何なんでしょうね。

成田はすごい人でした。日曜日ということもあってか、荷物検査に長蛇の列です。結局ラウンジに入ることができたのが、出発一時間前でした。
急いでマックを立ちあげ、たまっていたE-mailのレスを書き、そして搭乗開始間際に公衆電話から送信。コーヒー片手に雑誌でも読み、リラックスモードで出発しようと計画していたのですが、またまた慌ただしくなってしまいました。
さて、エア・カナダでの初めての空の旅です。成田-トロント間の直行便は一週間前に就航したばかり。
この13年間、ぼくはずっとカナディアン航空を使っていたのですが、会社が傾いたため、今エア・カナダが助け船を出している最中です。よって、チケットの申し込みはカナディアン航空、乗る便はエア・カナダ、でもマイレージはカナディアン航空でたまるという、何が何だかわからない状態となっているのです。
エア・カナダになったからといって、エコノミーのサービスにそれほど変化があるわけではありません。食事も定番であるチキンかフィッシュのどちらかでした。でもよく観察してみると、おまけにつくソバは信州ソバ、ワサビは安曇野ワサビ、ミネラルウォーターは木曽福島のKISO SPRING……、驚くことに機内の料理は信州づくし! 長野県人のぼくは感動しましたね。たったこれだけのことで、エア・カナダのファンになりました。
映画はアニメを含めると4本上映。暇つぶしにはもってこいでした。

12時間後、トロント国際空港に到着。
自動ドアを潜って外に出ると、ひんやりとした大気に全身を包まれます。穏やかに晴れているけど、吐く息は白く、まだまだカナダは冬の気配です。
以前、その日の内に国内線を乗り継いてプリンス・エドワード島まで向かうことができたのですが、今は無理。よってこの街で一泊する必要があるのです。
日本から予約を入れたNOVOTEL HOTELにチェックイン。ホテルは、現地で予約がいくらでも取れますが、日本の旅行代理店、もしくはインターネットから予約した方が、安いレートをゲットできます。
この中級ホテル、部屋やバスは広くて清潔、おまけにビジネスデスクもあり、なかなかの快適空間でした。
最近どのホテルにも、必ずデータ通信用のジャックが用意されています。部屋に入った直後にインターネットの接続にトライしてみました。
今回カナダ出発前に、AT&Tビジネスインターネットサービスと契約をしました。つまりそのプロバイダーが持つトロントのアクセスポイントに電話を掛け、kaz@kaz-yoshimura.comのメールを読ませるのです。
さてインターネットですが、もし皆さんが海外によく出掛けるとしたら、外資系のプロバイダーを選んだ方がいいでしょう。日本のプロバイダーでもよく、「海外のプロバイダーとローミングで結ばれているので、出張の際は現地からアクセスできます!」とうたっていますが、いざ海外からの接続となると大変です。
外資系のプロバイダーはいくつもありますが、ぼくがよく行くアトランティック・カナダ各地にアクセスポイントがあるのは、AT&Tだけでした。月の基本料金はちょっと高めですが、このプロバイダーはお勧めですよ。
リモートアクセスの番号を変更するだけで接続は無事完了。仕事関係のメールのレスを書き、最近会えない何人かの友達に「今トロントだよ」というメールを送り、下のレストランで簡単な夕食を済ませた後、部屋に戻って25時間ぶりの眠りにつきました。

4月10日(月)
無料の朝食がつくというので、朝一でレストランに行ってみました。このような場合、だいたいコーヒー&マフィンだけと相場が決まっています。しかしこのホテル、意外にも本格的なビュッフェ・スタイルでした。
凝った卵料理、ソーセージやベーコン、パンやクロワッサン、フルーツやヨーグルトは幾種類もあります。まるで高級ホテルのよう。コーヒーだって大きなポットでドンと出てきました。そして何より、鼻歌を歌いながら給仕する黒人ウェイトレスが実に陽気で感じ良かったです。
取材先でいろいろなホテルに泊まりますが、このような太っ腹スタイルのホテルは本当に珍しいです。次回も、トロントでの宿泊の際は、ここにしようと思います。

シャトルバスで空港に着いてびっくり。エア・カナダのチェックインカウンターの前は長〜い人の列です。カナディアン航空がこんなことになったので、カナダ国内でもパニックになっているんですね。
エア・カナダの場合、トロント-シャーロットタウン間の直行便があるのです。今回、その便に初めて乗りました。
150人乗りのジェット機の機内に乗客は1/3ほど。さすがにこの時期、観光客は誰一人としていません。窓側の席に座り、本を読むことにしました。
今回カナダに連れて来た本は2冊です。2月から読みはじめているけどちっとも終わらない『永遠の仔』の下巻。もう一冊は友達からもらった文庫本の『不夜城』。
まずは『不夜城』を読みはじめます。舞台は新宿歌舞伎町、中国人社会の物語。えっ、こんな世界が日本にも存在するのか! と実に新鮮で迫力ある小説です。なるほど、ベストセラーになった理由が頷けます。が、気持ち悪い描写がたくさんあり、面白い以上に読んでいて不快な気分になる物語でもあります。自然豊かなカナダには実に似合わない本を持ってきてしまいました。
目で活字を追うのに飽き、丸窓から下界を覗くと、大地は雪で真っ白です。ちょうどケベックあたりでしょう。でもアトランティック・カナダに近づくにつれ、雪は姿を消していきました。
2時間後、飛行機は定刻通りプリンス・エドワード島、シャーロットタウン空港に到着。島に入るのはこれで何度目でしょうか。50回を過ぎたあたりから、カウントしなくなりました。
ハーツでレンタカーを借り、空港のすぐ側にあるシャーウッド・モーテルにチェック・イン。オーナーのレイおじいちゃんと10カ月ぶりの再会です。
彼は少年時代、日本で暮らしていた時期があるので、とても日本びいきなおじいちゃんです。昨年の11月、香港、台湾、大阪を旅行して回ったらしく、事務手続きをしながら土産話をしてくれました。日本を訪れたのは実に15年ぶりのことだとか。一番驚いたこと、それは、豊かな国日本の街中にたくさんのホームレスがいたことだ、と言っていました。
いつものキッチンつきの部屋に荷物を運び入れ、ほっと一息着きます。時刻を確認するとお昼になったばかり。午後からの撮影も可能でしたが、島の天候がすっきりしないし、おまけに2日間の移動でクタクタに疲れていたので、外に出るのはやめました。
数人の友達に電話した後、ベッドの上でマックを叩いていたら、突然激しい睡魔に襲われます。気がついた時、外には夜の帳がおりていました。
夕食を食べに行くのが面倒になり、電気を消してそのまま眠りました。日本と東部カナダの時差は12時間。体の中から時差を取り除くためには、ただひたすら眠るのがいちばんです。

4月11日(火)
まだ暗い5時半に宿を飛び出しました。
まずはティム・ホートンに立ち寄り、ミディアムコーヒーをテイクアウト、それを啜りながら郊外へと車を走らせます。
224号線を西へ、ニュー・グラスゴウ村を過ぎる頃には、あたりの闇が溶けてきました。雪こそありませんが、島はまだ冬の装いです。大地は冬枯れしています。
入江には、南の地から戻ったたくさんのカナダガンが羽を休めていました。そういえば昨年の10月に、彼らの旅立ちの様子を写真に撮りました。きっと、その時にカメラに収まった子供たちも、今は親としてこの群れの中にいるのでしょう。
路傍に車を停め、買ったばかりのカメラ、ペンタックス6×7をバッグの中から取り出します。このカメラで初めて撮る被写体は、スプリング・ブルック村の入江でした。
操作は6×4.5と似ているので難なく使えるわけですが、このカメラ、ロールフィルムの装填が恐ろしく難しいです。
カナダ出発前はいつもバタバタしているので、必ず何か一つは忘れ物をしてきます。案の定、今回も大切な物を忘れてきました。それは手袋です。4月といえども早朝の気温は氷点下、カメラと三脚は氷のように冷たく、手袋がないと撮影はかなりシンドイ。午後にでも買うつもりです。

この時期、是非撮りたい被写体があります。それは春一番に咲く花、メイフラワーです。
でもメイフラワーを見つけ出すのは至難の業。12年前、ケンジントン村に住むおじいさんから、インディアン・リバー村にあるメイフラワーの森を教えてもらいました。
早速その村に行ってみましたが、いざ村に入っても、森がどこにあったのかどうしても思い出すことができません。ぼくの記憶違いなのか、それとも木々が伐採され、森そのものがなくなってしまったのか。いずれにしても吉村は、30歳を過ぎてから途端に物忘れが激しくなりました。
おじいさんに尋ねるのが手っ取り早いのですが、でもそのおじいさんと会ったのは12年も前のことですよね、だからはたして今は……。
2時間もさがし回り、ついに諦めました。滞在中には、どんなことをしても森を見つけ出すつもりです。

夕方、仕事関係のメールを送るため、急遽電話回線が必要になりました。シャーウッド・モーテルは宿泊料金が安いこともあってか、部屋に電話がないのです。
友人宅の電話を借りようと、何人かの友人に連絡してみたのですが、平日ということもあってか皆つかまりません。ドアにはカギが掛かっていないはずだから、家の中に勝手に入って電話を使っても文句を言う友人はいないと思いますが、日本人の謙虚さが、その行為を許してくれません。
シャーロットタウン・ホテルのロビーには、クレジットカードを使って電話を掛けるモデムつきの公衆電話があります。それを使おうとホテルへ向かっている最中、インフォメーション・センターの前を通りました。その時ふと、
「もしかしたら電話があるかもな……」
と閃き、そして立ち寄ってみると、ありました、ありました。宿の予約をとるための電話機が3台置かれており、ジャックも取り外し可能な状態です。
カウンターの中で暇そうにしていたおばさんに、早速使用許可をもらいます。まあこんな無理なお願いができるのも、カナダの場合、市内通話が無料だからですね。
そして無事にインターネットに接続、メールの送信が完了。同時に3通のメールを受信。その返事を速攻で書き、あらためて送信。

ちなみに島内で電話回線を使う、もう一つの裏ワザを教えましょう。
それは空港内にあるビジネス・センターを利用することです。そこにはパソコンやファックスが置かれており、誰もが自由に出入りし、仕事をすることが可能です。
誰もいない時にこっそりとファックスのジャックを引っこ抜き、それをすかさず自分のノートパソコンに接続し、アクセスポイントに電話を掛け、メールチェックをするのです。市内通話であれば問題ありません。
でも皆さんは、ちゃんと電話がある宿に泊まるわけだし、こんなことは必要ないですよね。

4月12日(水)
またまた朝から撮影です。上空は雲にびっしり覆われています。こんな日は撮影に出掛けないのが普通ですが、短期で島に滞在している時は常に焦っているので、勇んで外へ飛び出すのです。
雲海の切れ間から真っ赤な朝陽が顔を出し、雲全体もほどよく焼け、とても綺麗でした。でも、いまいちパンチがきいた写真を撮ることができません。それって、撮影している時にわかるのです。
9時過ぎ、雪が舞いはじめました。湿り気を帯びた春の雪です。徐々に島は雪化粧していきます。雪解けの表情の撮影ができる!と嬉しくなりました。
それにしても、何て自分は運がいいのでしょう。だってここ数週間、雪は全くなかったのですよ。それが突然降るわけですから。
カナダに滞在していると、時々、自然界の神様が自分自身に味方してくれているな、と感じることがあります。天候なんか偶然さ、とい言い切るのは簡単です。でもそれではあまりに味気ない。「自然」と「人間」の間には、ぼくらが説明できないような不思議な関係があると考えた方が、面白いですよね。そうすると、「あいつは晴れ男だ、雨男だ」という表現も信憑性を帯びてきます。

……でも残念ながら、午後から雪は雨に変わり、せっかく降り積もった雪もすべて溶けてしまいました。やはり地球温暖化が原因なんでしょうか。かつて、5月初旬に大雪が降ったことも、6月初旬に雪が舞ったこともありました。

さて、プリンス・エドワード島と接するのは実に5カ月ぶりのことです。2月もカナダに入っていたのですが、ニューファンドランド州とノバ・スコシア州を取材していたので、島には立ち寄りませんでした。
たった数ヶ月間でも、シャーロットタウンの街はかなり変化しています。中央分離帯がある道路が増え、交差点には信号が設けられ、大型ショッピングモールがオープンし、幾つかのレストランが開店し、閉店していました。この「変化」こそが、街の宿命かもしれません。
島のカントリーサイドは、以前と変わりのない素朴な景観が広がっています。もし郊外さえも次々と開発されていくようであれば、嫌悪感を覚えると同時に、何となく悲しくなりますよね。
でも正直に言うと、島には新しいゴルフ場が次々と誕生していることも事実です。なだらかな起伏を持つ丘陵が、ゴルフ場に適しているからなのでしょう。観光局は北米マーケットに対し、「北米で最も素晴らしいゴルフコースがある島!」とアピールしていますが、いつの日か、プリンス・エドワード島と言えばゴルフ場、という時代が来るのかもしれません。

シャーロットタウンに出てある仕事をしました。それはある会社が出す新製品のテストです。秘密保持契約を結んでいるので、「ある」としか言えませんが、カメラマンにはこんな仕事もあるのです。
まずはシャーロットタウンで一番大きなカトリック教会、バシリカに足を伸ばしました。係りの人から撮影許可をもらい、すぐに撮影開始です。
ゴシック調の荘厳な教会、内部の彫刻、ステンドグラスは見事です。教会の中の空気はりんとしており、心が研ぎ澄まされていくようです。まるで別世界に迷い込んだよう。
おじさんがパイオルガンの練習をしていました。教会内に響き渡る音色に包まれての撮影となりました。

その後、近くのB&B、フィツロイ・ホールに立ち寄ります。残念ながらオーナーは不在。しかし娘さんがおり、早速ぼくが「昨年の秋にここに泊まったんだけど、内部のインテリアが素晴らしかったから、もう一度写真を撮らせてもらってもいい?」と尋ねると、彼女は元気に言いました。「もちろんよ、勝手にどんどん撮って!」
カナダって、こんなところがいいですよね。特に田舎にある家は、常にオープンハウスなので、家の出入りがとても自由。
もし日本の都会で同じことをやると、単なる「変質者」扱いされますよね。
ぼくは今まで、雑誌関係の仕事でカナダのインテリアやガーデンを撮影してきましたが、その多くが、町中を歩いている時に偶然見つけ、その場でオーナーにコンタクトし、撮らせてもらったんですよ。撮影の後、「食べていけよ」と食事に誘われたりしたこともあったりして。

夕方、雨があがりました。
午後はクイーンズ郡まで足を伸ばし、風景の撮影です。赭土が雨水をたっぷり吸い、瑞々しく輝いている光景。ぼくはとても好きです。大地の喜びの声を意識します。
この時期の撮影で常に心掛けていること、それは「春らしさ」です。でも、それを写真で表現するのはとても難しい……。
フィルムを5本も回しましたが、今日も手応えのある写真は撮れませんでした。

4月13日(木)
雲が多いけど、一応晴れです。
風景にカメラを向けながら、ブレイドルバーン村へと向かいました。この村にある森の中で、陶芸家のマルコムと彼の家族が暮らしています。彼は自宅の隣に工房を持ち、そこで作品作りをしているのです。
ドア叩き工房内に入ったぼくは、彼と5カ月ぶりの再会。お互いの近況報告をしたり、写真集を見せたりして、話を弾ませました。
そしていつものように少しだけ、マルコムが轆轤を回している様子を写真に撮りました。途中不意に窓の外を覗くと、なんと餌台にブルージェイが。ぼくが「あっ」と声をあげると、彼は言いました。
「そこにも新しい餌台を設置したんだよ。野鳥たちは大喜びさ」
ぼくはカメラに望遠レンズをつけ、鳥たちを狙います。でも鳥たちは頭がいいからわかるんですよね、撮られていることが。こちらが本格的な構えを見せると、餌台には一匹の野鳥も寄りつかなくなりました。10分経っても20分経ってもだめ。
マルコムは笑いながら、
「なーに、もう彼らの朝食の時間が終わったからさ。また明日にでも来てみろよ。必ずいい写真が撮れるから」

午後はキングス郡の風景撮影をしました。
夕方シャーロットタウンに戻り、コンフェデレーション・モールにあるPさんのオフィスに足を運びます。Pさんは、フリーランスで通訳やコーディネートなどの仕事をするキャリアウーマン、島では成功した女性の一人です。彼女とは13年来の友だち、ご主人もよく知っています。
Pさんの会社は、吉村のカナダの写真エージェントでもあります。だから最初はPさんと仕事に関する話をしました。
その後、近くのチャイニーズ・レストランへ場所を変え、世間話に花を咲かせました。
カナダに来てこうして友だちと喋っていると、ぼくの方が数ヶ月間日本にいたことが嘘のように感じてしまうから不思議です。なんだか先週もこうして会っていたような感じ。
Pさんも写真集をすごいと言ってくれました。「この島で本を売りなさいよ!」とアドバイスしてくれましたが、う〜ん、それが出来れば確かに最高ですよね。でも現実問題として難しいのです。
問題は、カナダドルと比べ日本円があまりにも高いこと。加えて、写真集は一冊1キロもあるので、どうやってカナダに送るか悩みます。船便でも結構高くなり、関税も取られます。
Pさん曰く、印刷物を送る場合、政府機関を使った特殊な運送ルートがあるとのこと。早速調べてしらべてみる、と言っていました。うまくいくといいのですが。
残業するという彼女と別れた後、ぼくはシャーロットタウン郊外に住む日本人のS夫妻宅を訪ねました。
借りていたアパートを引き払ってからというもの、写真器材や夏場のキャンプ用品などは、すべてSさん宅に預けてあるのです。
S夫妻は数年前にカナダの永住権を取得、そして最近一戸建てを買ったばかりです。近々奥さんのMさんは、子供を対象とした音楽教室をはじめるとか。家に入るとまず、愛用のグランドピアノを日本から船便で送った時の苦労話をしてくれました。そしてリビングルームに移動、日本茶を啜りながらS夫妻と話をします。
「そういえばフレンチ・リバー村に、ハリウッドスターの○○○○○が別荘を建てているらしわよ」と奥さんのMさん。
「○○○○○って、あの有名な○○○○○?」ぼくが驚くと、
「そう。すでに島中に噂が流れているわ。彼はフレンチリバー村の景観がとても気に入ったらしいの」
「それって本当かなあ〜。マジであんな有名人がこの島に来るんだろうか」
「うん確かにそうだ。きっと何かの間違いだと思う」とご主人のHさん。
「でもハリウッドもP.E.I. も同じ北米内だから、もしかしたらありえる話かもしれない……」
あれこれと3人で議論を交わした結果、やはりそれはアイランダーの噂話であり、たとえ本当だとしても、○○○○○の付き人か愛人のために建てる別荘だ、という結論に達しました。
だって、世界中の誰もが知っているあの超大物スターが、この田舎の島に来るわけないもんね。

4月14日(金)
朝陽の撮影の後、再びメイフラワーの森をさがしてみることにしました。前回と同じように道という道を隈無く走ってみましたが、やっぱり見つからず、以前いっしょに行ったことがある友人に電話をし、尋ねてみました。すると、やはりインディアン・リバー村で間違いないとのこと。友人には、「吉村くんはもうトシだね」と笑われましたけど。
そして10分後、ついにそれらしき森を発見! でも森の中に入ってびっくり、枯れ木が倒れ、灌木が茂り、荒れ放題です。きっと冬の嵐の影響でしょう。
この時期、さすがにまだメイフラワーは咲いていませんでしたが、地面にはたくさんの青々とした緑の葉っぱが確認できました。開花まで、あと2週間といったところでしょうか。
正直言って、メイフラワーは年々数が少なくなっていることも事実です。その原因は、地球全体の気候変化と、森林開発です。

昼頃、一端シャーロットタウンに戻りました。
今回レンタカーはハーツで借りています。車種はトヨタのカローラ、ハンドルが軽く燃費がよく申し分ないのですが、ハーツに対して不満もあります。それは、一日200キロまでしか走れないということ。それ以上走ると、1キロにつき20セントが加算されていきます。海外のレンタカーはだいたいこんな感じ。
通常の観光旅行なら、それでもいいかもしれません。でも写真家のぼくにとっては、一日200キロなんて、近所のコンビニへ買い物にいくようなもの。
ローカルのAレンタカー会社に行き、顔見知りのオーナーSに相談してみました。
ぼくが、「ハーツで週260ドルで契約したけど、もっと安くしてくれればすぐにでもお宅と契約するよ」と言うと、Sは言いました。「よし、うちは週180ドルにしてやる。マイレージも無制限でいいぞ。そんな高いレンタカー、とっととリターンしちまいな」
すぐにハーツに行き、返却の手続きをします。「理由は?」と質問されたので「他社の方が安いから」と言うと、「そうか、それは残念だ」と納得してくれました。
カナダのレンタカーは、客を送り届けるサービスがつきます。
「どこまでドライブが必要か?」と訊かれたので、ぼくは堂々と「Sレンタカーまで」と言うと、ハーツの担当者は苦笑いしながら送ってくれました。
そして夕方から、自分の足は赤のサンファイヤーです。でもアメ車のため、燃費が恐ろしく悪い……。もしかしたらカローラに乗っていた方が得だったのかも。

東京の事務所の留守電を聞くと、ある仕事の依頼メッセージが入っていました。そこで急ぎのメールが発生。近くのアトランティック・スーパーストアにある公衆電話を使うことにしました。
最近カナダの公衆電話にも、日本の公衆電話と同じようにちゃっかりとモデム端末がついています。
そこで皆さんに、公衆電話を使ってインターネットに接続する方法を説明しましょう。
まずは端末に、パソコンから出た電話線を繋ぎます。次に受話器を外し、#のボタンを2回押し、2〜3秒待ってからパソコンで電話を掛けます。ピポパピポの音が終わったら、すかさずクレジットカード入れます。カードを照合している時間が30秒〜40秒。(パソコン側の「待ち時間」をそれ以下に設定していると、その間に回線がブチリと切れてしまうので要注意。ちなみにぼくは90秒に設定しています)それが終わると、公衆電話が勝手に電話を繋いでくれ、例のあのピ〜ヒャララ〜の音が聞こえ、無事にインターネット接続OKとなります。
ただしこれはあくまでクレジットカードを使う場合。フォンカード(カナダのテレフォンカードのようなもの)での接続の仕方は、今度研究し、わかり次第このホームページでお伝えします。

急ぎのメールを送信すると同時に12通の新規メールをゲット。うち3通が写真集を買いました! という感想メールでした。皆さん本当にありがとうございます。取材過程で受け取るメールは、とても嬉しいです。
最近、写真集の感想より、「吉村さんは、どんどんと夢を形にしていて羨ましなあ〜」というメールが多いのに驚かされます。たぶんそれは、ぼく自身が32歳という若さ(?)からでしょう。だから皆さんの夢が重なるんですね。
夢って、強く願いそして努力していれば、かならずいつかは叶う気がします。夢の実現って、行動するか、しないかによっても決まるんですよね。ちなみに吉村は、才能なんてからきしない人間ですが、行動力だけはあります。
とにかく積極的に海外に出て写真を撮りました。仕事があるから海外に出たわけじゃないですよ。最初から決まっていた仕事なんて何一つとしてなく、こんな写真を撮っても売れるのかな…、写真集なんか出るのかな…、と常に不安と対峙していました。もちろん「安定生活」なんてどーでもいいや、という感じで自棄になってもいたけど。
でもそんなスタイルを繰り返していると、不思議と仕事が後からついてくるのです。自分が前向きに生きていると、それを見ている人が必ずいるんですね。
お金だってそうです。少なくとも20代は、100万あったらその100万をポーンと使った方が成功すると思います。でもぼくの場合、100万あったら120万は使うような無鉄砲さだったから、常に厄介な問題がつきまとっていたけれど…。
と、話が横道にそれましたが、皆さんが書いて送ってくれるメール、海外にいても一通一通きちんと目を通しています。ありがとう。

4月15日(土)
朝の3時に目が覚めました。
昨晩宿に戻り、本の活字を目で追っていたら眠ってしまったようです。まだ時差ボケが尾を引いています。
夕食を食べていなかったので、激しい空腹感を覚えました。さてこんな真夜中にどうするか……。心配はいりません。今は、大型スーパーのすべてが24時間営業なのです。
シャーロットタウンの街の外れにあるソービーズに足を運びました。確かにオープンしていましたが、店内に客は誰一人としていません。数人の従業員が商品の陳列をしているだけの寂しい光景でした。
プリンス・エドワード島でも、数年前から食料品店は軒並み24時間営業になりました。でも、何のための24時間なんでしょうね。こんな真夜中に一体誰が買い物をするのでしょうか。オールナイトにしたのは店同士のサービス合戦だと推測しますが、無駄なような気もします。
でも、北米の田舎を旅していて「すごいなあ〜」と感心させられる点、それは大型店の充実です。
一万人規模の街があれば、近郊には必ず日用雑貨や食料品の大型店があります。スーパーストア、ケーマート、ウォールマート、ソービーズ、アイジーエー……。でも面白いことに、店内はいつも客がまばらです。特に冬なんて、 日本のイトーヨーカドー、ダイエーのワンフロアに、客が2、3人しかいないというような感じなのですよ。
これらの大型店、人口比率からしたらやたら大きいのですが、赤字にならずにやっていけるのは、たぶん地価が安いからでしょう。
パン、ハム、フルーツ、ヨーグルトを買い、レジで暇そうにしていた若い女の人にトラベラーズチェックで支払いました。真夜中の客が随分と意外だったのか、彼女は話し掛けてきます。
「あら、あなたどこから来たの?」
「日本です」
「こんな時期に何しに島へ?」
「写真を撮っているんです。ジェットラグ(時差ボケ)で起きてしまいました」
「あらあら」
「でも不思議ですね、店が真夜中でもオープンしているなんて」
すると彼女は呆れたように、
「客なんか誰も来やしないわよ。一体何を考えているんでしょうね」
帰り掛け、これまた24時間営業のティムホートンに立ち寄りました。ドライブスルーでコーヒーを受け取り、1ドル35セントを払おうとすると、小銭が1ドル25セントしか見あたりません。「ちょっと待って、さがすから」と言うと、「10セントはいらないわ」と店員。
う〜ん、たとえファーストフードでも、人間味あるカナダっていいですよね。例えば他のレストランやガソリンスタンドでも、92セントや93セントの時に1ドル支払うと、必ず10セントのお釣りをくれます。
日本では絶対にこんなことはありえませんよね。特にファーストフードでアルバイトする若者は、杓子定規を絵に描いたようです。つまりそれは、彼らに責任感と自己主張がないからでしょう。
そうそう、先日東京でこんなことがありました。
家の近くのハンバーガーショップに入った時、10%オフになるクーポン券を2枚使おうとしました。するとアルバイトの女の子に、「これはお一人様一枚です」と言われたのです。そんなことはどこにも書いていなかったので、ぼくはムッとして「じゃあ、5分後にもう一度来ますから、そしたらまた使ってもいいんですか?」と尋ねました。すると、客にそう言われたのが随分と意外だったらしく、彼女は困っています。そしてお決まりの言葉。「少々、お待ちください。いま店長に確認してきますので……」
おいおい、そのくらい自分で決断してくれよな〜と叫びたくなりましたが、いじめるのはあまりに可哀想だったので、いいよ、いいよ、と許してあげました。
もしこれがカナダだったらどうなるか。ぼくがそのように言うと、アルバイトの女の子はこう答えるでしょう。
「あら、あなたって何て頭がいいのかしら。いいわよ、このクーポンを2枚使って!」
そしてウインクなんかをして、特別に2枚受け取ってくれるでしょう。
カナダのこんな所はいい加減さというのではなく、おおらかさと言うべきでしょう。

あたりが明るくなると同時に、突然雨が降りはじめました。たまには撮影をしない日があってもいいな、と思い、今日はオフの日と決めました。
9時過ぎに、クイーンズ郡の郊外に住む日本人の友達Sさんに電話。彼女は今日一日暇だというので、早速遊びに行くことにしました。
SさんはアイランダーのKさんといっしょに暮らし、2人で小さなホテルを経営しています。以前、外観と室内の写真を撮ってくれないかという依頼があり、そのギャラは、一週間の宿泊費無料という形で受け取りました。それ以来、二人と交流があるのです。
Kさんは漁師でもあります。漁に関する原稿を書いている時に、E-mailでたくさんの情報をもらっていたので、そのお礼を兼ね、写真集を一冊プレゼントします。
地元の人に「これはすごい写真集だ!」と誉めてもらえると、やはり嬉しいです。
Kさんは尋ねてきました。
「ところでこの本、いつ発売されたんだい?」
「3週間前です」
「だったらこれからが楽しみだな」
「いや、もう多くの書店からは姿を消したよ」
「えっ!、ベストセラーなのか?」
「いや違う。平積みの期間が終わったんだ」
「それってどういうこと???」
ぼくは、一日200冊以上の新刊が出て、書店の棚は次から次へと新しい本に生まれ変わる、という日本の出版界の現状を詳しく説明してあげました。当然Kさんは目を丸くして驚きます。
もしこの写真集がカナダで出版されたとすれば、おそらく一年以上は平積みとなるでしょう。そう、出版の世界は、日本とカナダとでは全く違うのです。
本を最初の勢いで売るか、ゆっくり時間を掛けて売るか……。どちらも正しいスタイルだと思いますが、常にスピードの中で生きている日本人からみれば、カナダのスタイルにも少しだけ憧れますね。
二人は先月日本旅行をしたとか。アルバムを開きながら、その時の思い出話を語ってくれました。
Kさんは、ゴミの収集車やミキサー車があまりに小さいのでびっくりしたらしく、そのため車のスナップ写真がたくさんありました。ぼくらが普段見慣れている光景も、カナダ人にとっては珍しいんですね。
箱根、日光などの写真もたくさんあり、言ったことがないぼくは、KさんSさんから色々な話を聞き、逆に勉強になりました。

島で一番古い日本人の友人といえば、誰をさておきMさんです。すでに大学生になった二人の娘さんは、小さい頃から知っています。ご主人のDさんはアイランダー、とてもいい人で、そう、Mさん宅はまさに幸せを絵に描いたような家庭です。
夕食時、そのMさん宅にお邪魔しました。
今日は、シーフードパーティーです。ご主人のDさんもキッチンに立ち、料理をはじめます。白人男性がキッチンに立つ姿って、どうしてこうも様になるんでしょうか。ぼくは思わずカメラを向け、何枚も写真を撮りました。
ロブスター、カニ、ホタテ、サーモン、ムール貝……。シーフードをたらふく頂きました。特にカニは、日本で食べると5000円以上はしますよね。シーフードが安く美味しいカナダって、天国です。
夕食後、二人から、写真集を送ってくれたお礼にと、あるCD-ROMをもらいましたが、残念ながらウインドウズ専用。そう、日本ではマックが大ブレイクしていますが、この島ではほとんどの人がウインドウズです。
当然、ぼくの手持ちのパワーブックでは見ることが出来きません。Mさん宅のウインドウズのデスクトップを使ってみたのですが、家族の中で誰一人としてCD-ROMの立ち上げ方を知りません。
マックだと簡単なのですが、ウインドウズって、どうしてこうも操作が難しいのでしょうか。マック派から見れば、毎日ウインドウズを使って仕事をしている人って、本当にすごいなと思います。
ご主人のDさんは、知る人ぞ知る懸賞マニアです。当たるコツを熟知しているらしく、確実に欲しい商品をゲットすることで有名。あまりに当てるものだから、かつてアメリカの新聞社が取材に来たほど。
今年に入ってからは、清涼飲料水の懸賞で、豪華客船クルーズ4名無料旅行券を当てたとか。その美味しい旅に参加した時に撮った記念写真を拝見しながら、バハマ、フロリダ、ディズニーワールドでの思い出話を聞きました。
そういえば、午前中に訪れたSさん宅でも、旅の話をしていましたっけ。そうなんです。冬の期間、カナダ人は旅ばかりしているのです。でないと、長く厳しい冬にめげてしまうからでしょう。まるで渡り鳥みたいです。

4月16日(日)
ぐずついた天気は一向に回復する気配をみせません。ティムホートンから持ち帰ったコーヒーを飲みながら、さて、今日一日何をしようかと考えました。
午前中、とりあえず洗濯です。
ぼくは海外取材の際、シャツは4枚、ジーパン2枚、そして下着類を8セット持っていきます。つまり、洗濯は一週間に一度でいいようにしているのです。(当然キャンプ生活の時はもっと長くなる)つまり、カナダに来てから今日でちょうど7日目、あと一日分の猶予があるのですが、明日はこの島を出るので、思い切って今日洗濯してしまおう、と考えたわけです。
カナダはどこに行ってもコインランドリーがたくさんあります。シャーロットタウンだけでも、10件以上はあります。一戸建てでない限り、洗濯機のある家はまれです。アパートには当然ついていません。だから多くの人にとって、コインランドリーは必要なのです。
ぼくが行くのは、ユニバーシティーアベニューにあるランドリーと決めています。何故なら、年中無休で夜10時までの営業、内部は清潔でソファーがあるため本が読めるからです。
雨ということもあってか店中は混んでいました。空いている洗濯機に衣類をつっこみます。洗濯は20分で終了。次に濡れた衣類を乾燥機へ移し替えます。でも、機械にコインを入れても、ホコリが詰まっているのか、なかなか落ちてくれません。すると太ったおばちゃんがすかさずやって来て、「しょうがないわね」と機械をドンドンと叩きます。するとコインがカチャンと落ちる……。ハハハ、映りの悪くなったテレビを叩くのと同じですね。
今までの経験から、40分でGパンを含むすべての衣類がドライになります。いつもだとその間にランドリーを出て、ショッピングモールをぶらついたり、食事をしたりするのですが、今日はランドリーの中で読書をしました。昨日Mさんから借りたある作家のエッセイ集。でも恐ろしくつまらない本で、すぐにうたた寝をはじめました。

そぼふる雨の中、郊外へ撮影に出掛けました。途中雪に変わりましたが、気温が高いので、雪が地面に積もることはありません。
たとえ天気が悪くても、よーく目を凝らしてみると、心に響く被写体が必ず見つかるものです。ラスティコ村の漁村で積み重なっているトラップに目がとまり、1時間も掛けてじっくりと撮影しました。
今年のロブスター漁は1日早い4月29日にはじまると漁師のKさん言っていました。暖冬で海の氷が張らなかったらしく、漁に影響するのではないかと誰もが心配しているようです。
漁港で時折見掛ける漁師は、トラップを直したり、舟のエンジンの調子をチェックしたりして、忙しくしていました。彼らにとっては一年のうちで最も大切な時期。物事のはじまりって、何故かとても心惹かれますね。
さて、いよいよ明日からニュー・ブランズウィック州取材です。